土用の丑の日といえばうなぎ。香ばしく焼き上がったうなぎを口に入れると、ふんわりとした身が柔らかく、なんとも言えない美味しさです。万葉集には、夏痩せにはうなぎがいいと勧めた句があります。それほど栄養いっぱいのうなぎは、暑い時期のスタミナ食にぴったりです。
うなぎは熱帯~温帯の海や川に生息しています。国内では、利根川、四万十川や仁淀川などで天然のうなぎが獲れますが、流通する国産うなぎのほとんどは養殖です。静岡県の浜名湖で、明治初期に養殖が行われたのが始まり。その後、各地に広まり、鹿児島県、愛知県、宮崎県などがうなぎの養殖地として有名になりました。
しかし最近では、養殖のベースとなるうなぎの稚魚、天然シラスウナギの減少が問題になっています。国産のうなぎだけでは日本人の需要に対応できず、現在では台湾、中国やオーストラリアからも、養殖うなぎが輸入されています。また、東南アジアの白身魚「パンガシウス」の蒲焼きも、うなぎの代用品として店頭で見かけるようになりました。
ところで、天然うなぎと養殖うなぎの味の違いはなんでしょうか。天然のうなぎは養殖に比べて、ややさっぱりとした味わいです。生息していた地域や環境によって味が違い、獲った時期によっても風味が異なります。春から夏にかけてはあっさりとした風味、秋から冬にかけては脂が乗って肉厚です。
国産品と輸入品の違いについてはどうでしょうか。一般的に、国産は身が薄くあっさりとした味、輸入は脂がよく乗っていることが多いようです。ちなみに、うなぎは世界の国々でも食べられており、ドイツやベルギーにはうなぎの燻製、スペインにはうなぎの稚魚を炒めた料理などがあります。また、フランスではうなぎが養殖されており、うなぎをワインで煮込んだ料理もよく食べられているそうです。
日本の場合は、かば焼きや白焼きの他、うなぎの頭、肝や骨をそれぞれ調理して食べています。さばき方や焼き方にこだわりを持ち、うなぎの美味しさを引き出す技術に長けている日本人は、世界の中でも究極の“うなぎ好き”ではないでしょうか。
さて、これだけうなぎの料理があるなか、唯一存在しないのがお刺身です。うなぎの身に毒はないのですが、血には多少の毒が含まれています。加熱してしまえばその毒性も消えるので、焼いて食べる分には心配はありません。
うなぎは寒い時期にたくさんの脂を蓄えるので、脂が乗って身も柔らかくなるのは寒い時期です。土用の丑の日にうなぎを好んで食べる習慣から、流通量が多くなるのは6月から9月にかけてでしょう。
うなぎを生で買う場合は、太くて脂がよく乗っているものを選びます。体に傷が付いていたり、皮がたるんでいたりするものは鮮度が低く、味も落ちます。かば焼きを購入する場合は、全体的に厚みがあり、身が幅広で、皮が縮んでいないものがよいでしょう。
買ってきたかば焼きを保存する場合は冷蔵庫で。食べるときは、グリルやトースターで焼くと香ばしさが戻ります。冷凍保存する場合は、付いているタレをキッチンペーパーでふき取り、ラップに包んだ後、ビニール袋に入れます。
美味しく食べるコツは、日本酒を使うこと。フライパンの上にクシャっとさせたアルミ箔を置き、その上に皮を下にしたうなぎを置いたら、日本酒を大さじ2杯くらいかけます。そのまま弱火から中火で蒸し焼きにすると、ふっくらしたうなぎの身を楽しむことができます。余ったうなぎは、細かくしてご飯に混ぜたり、卵焼きに入れたりしても美味しいです。
タンパク質 脂質 ビタミンA ビタミンD ビタミンE
土用の丑の日になぜ、うなぎを食べるようになったのでしょうか?
そのきっかけを作ったのは、江戸時代の有名な蘭学者である平賀源内のようです。江戸を代表する知の巨人であり、発明家としても知られていた彼に、あるうなぎ屋さんから「夏にうなぎのかば焼きを売るためにはどうしたらいいか」と相談がありました。すると彼は、「丑の日の“う”にかけて、“う”の付くものを食べると縁起がいいと宣伝したらどうか?」とアイディアを出したといいます。
うなぎは古くから、精を付ける食品として知られていたので、夏を乗り切るには「うの付く丑の日にうなぎがいい」と売り出したところ、大当たり。お店の前に「本日、土用の丑の日」という看板を置き、流行りものを見逃さない江戸っ子の気持ちをぐっとつかんだということです。